[通信] cdma2000(2000)
第7回:cdma2000とは
日本ではKDDI(au)が導入してサービス開始されることになった次世代移動通信の規格が,このcdma2000(MC-CDMA・北米方式)です。元々は,Qualcomm社などを中心とするグループが次世代携帯電話の通信方式で,ITUから勧告されたIMT-2000に準拠しています。日本ではこの方式とDS-CDMA(W-CDMA・日欧方式)とが,次世代携帯電話(移動体通信)システムの規格として使われることになりました。
このcdma2000も,W-CDMA同様,「有線電話並の奇麗な音質」「高速度なデータ転送」を実現していて,データ転送速度は高速移動時144kbps,歩行時384kbps,静止時2Mbpsあり,現在のPDC方式やcdmaOne方式と比べるとかなり多くのデジタルデータを短時間に送受信できるようになります。そのため,このcdma2000でもW-CDMAと同様に,音声を使った電話,動画やデータの送れる電話,パソコンなどの高速モバイル通信用のアダプタなど,さまざまな応用機器が発売されることになるはずです。
■ cdma2000の仕組み「MC-CDMA」
cdma2000もW-CDMAと同様,「有線電話並の奇麗な音質」「高速度なデータ転送」を満足するような次世代の規格として作られたわけですが,データ転送の大容量化の仕組み実現方法がW-CDMAとは少し違います。
このcdma2000という方式の別名のMC-CDMAの「MC」の名前が示す,通り,このcdma2000ではMC-FDD(Multi Carrier Division Duplex)「マルチキャリア伝送方式」が使われています。簡単に言うとこのマルチキャリア伝送は,必要に応じて,複数のチャネルを使う方式です。cdmaOneでは必ず,ひとつの端末は帯域1.25MHzの1チャネルのみを使います。cdma2000でも同じように1つづつは1.25MHzの帯域を使っているのですが,それを何本も使って送ろうとする信号を,複数のルートに分割し,各ルートで別々の周波数で変調して送るわけです。
例えるなら,このデジタル信号を荷物を積んだトラック,帯域を道路と考えればいいでしょう。1車線の道路では,一度に1台のトラックしか走れないのでデータを1台分しか運べませんが,道路が3車線になれば一度に3台までトラックが並んで走れるようになります。結果的に同時により多くのデータが運べるようになるわけです。
cdma2000
■ cdmaOneからcdma2000へ
このcdma2000のメリットは,特にcdmaOneを扱っていたメーカーや,通信事業者(キャリア)にとって,システム構築が安くあがることです。その構造上,cdmaOneで使われていた技術的をそのまま応用すればいいからです。実際には,IMT-2000では周波数帯が2GHz帯になるため(cdmaOneは800MHz帯),そのままの技術,設備を使えるわけではありませんが,それでもある程度までは使えるので,その分,それまでの方式から大きく変えたW-CDMA陣営と比較すると開発にかける費用を安くできます。
このcdma2000では,現在のcdmaOneからIMT-2000完全準拠のcdma2000の「3x MC」というバージョンまで,以下のような順番で開発される予定になっています。
まず,cdmaOne(IS-95A/B)。これが現在のcdmaOneの規格で最大14.4/115.2kbpsのデータ転送速度を持っていていて,IS-95Bではソフトハンドオフなどの改良がされています。
その次には「1x EVDO(1x Evolution Data Only)」と「1x MC(マルチキャリア)」という規格ができます。
「1x EVDO」はひとつのチャネルで音声を使用するのをやめてチャネルでのデジタルデータの送り方をパケットデータ転送に最適化して(データ通信と会話が同時にはできなくなってしまいますが),最大2.4Mビット秒・平均では600kビット/秒)の速度でデータ転送ができる「HDR」というcdmaOneの応用技術を使ったパケットデータ転送専用の規格です。
「1x MC」はIMT-2000規格ファミリーの一員となる,音声通信を主にした規格です。データ転送は最大307kbpsで今のcdmaOneより高音質になる予定です。この1x MCはcdmeOneと下方互換(お互いに部品などを共用できる)を意識して作られるので,端末も現在のcdmaOneと同程度のコストで作れる,と言われています。
そして,周波数は2GHz帯,「1x EVDO」と「1x MC」の両方の技術を利用して音声とデータ伝送を統合,最大で3つのチャネルを利用し,最大で2Mbpsのデータ転送が行なえる,「3x MC(マルチキャリア)」が最後に登場することになっています。
一見,規格がごちゃごちゃとあって面倒なように見えますが,現在のcdmaOneから最終目標の3x MCまで,順に,それまで使っていた技術などを共用することが考えられているので,事業者にとっても,ユーザーにとっても楽にアップグレードできるようになることでしょう。
cdmaOne→cdma2000
■ W-CDMAとはここが違う
W-CDMA,cdma2000のどちらも電波は2GHz帯,音声,データ通信の高速化が図られますので,音質にはそれほど大きな差はなさそうです(実際にはW-CDMA端末,cdma2000端末どちらも発売されていませんので,確定的なことは言えませんが)。
W-CDMAとcdma2000との違いは簡単に言うと「電波をどのように使うか」の違いですから,もし,それぞれの使い勝手が違ってくるとすると,あまり設備のない場所にユーザーが集中してしまったときなどが予想できます。
W-CDMAではひとつの大きな帯域にデータ通信のデータや音声データなどが複数入り交じって1つのチャネルで送信されます。ですから,もし,たとえば音声とデータ通信とさらに動画を転送するような場合,音声と動画のデータが大きすぎて,データ通信ほうの通信速度の低下や電話の音声品質の低下,などと言う事がおこるかもしれません。
が,マルチキャリア方式のcdma2000では,音声は音声,データはデータで別の帯域を使ってデータの送受信がされますので,お互いのデータ量がお互いのデータ転送速度に影響することはありません。が,逆にいうと,何かの都合で帯域を1チャネル分しかとれなかった場合は,音声,データ通信,どちらかしか使えなくなってしまう,という可能性も出てくるかもしれません。
ただ,実際に,そのような障害が起こるかは,基地局の充実具合やどれだけユーザーが集中するかにかかってくるので,実際にサービスが始まったときにどちらが有利かとはまったく言うことができません。実際のところサービスが始まってみないとどっちがいいのか,それぞれに何が起こるかわからない,というのが正直なところでしょう。
このほか,W-CDMAは従来のPDCとはまったく違う技術のネットワークになるので,W-CDMAのネットワークを1から作ることになり,サービス開始当初はどうしてもW-CDMA端末が使用できるエリアが限られます。この点,cdma2000は,cdmaOneと基本的な技術は同じCDMA技術になりますので,cdma2000とcdmaOneが両方利用できる端末がはじめから開発・供給されれば,サービス開始当初から全国で端末が利用できる可能性があります。W-CDMA端末でも,PDCとのデュアルモードをサポートしたもの(現在のドッチーモのようなものと考えてください)が出てくる可能性はありますが,サービス開始当初から出すのは難しいでしょう。
■ サービス開始は
cdma2000方式を採用したIMT-2000規格の携帯通信サービスは,日本ではKDDI(au)が東京,関西で2002年9月頃,その他の地区で2004年3月頃のスタートが予定されています。
【サービス開始時期(予定)】
KDDI
(10月からKDD・DDI・IDOが合併,現在のIDOエリア)
エーユー
(11月から,現在の関西・九州・中国・東北・北海道・北陸・四国の各セルラーが合併)
沖縄セルラー
大和哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月,Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来,パソコン誌にて初歩のプログラミング,HTML,CGI,インターネットプロトコルなどの解説記事,インターネット関連のQ&A;,ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。
(イラスト : 高橋哲史)
2000/08/01
KDDI
http://www.kddi.com/
ケータイ Watch
http://k-tai.impress.co.jp/column/keyword/2000/08/01/
http://k-tai.impress.co.jp/news/2001/08/14/thanks.htm
http://k-tai.impress.co.jp/news/2002/
第6回:W-CDMAとは
NTTドコモ、J-フォングループが次世代移動通信システム(IMT-2000)の無線アクセス方式として採用することにしたのが、このW-CDMA(DS-CDMA・日欧)方式です。日本のNTTドコモ、欧州のエリクソン、ノキアなどが協力して作られた移動体通信の方式無線部分、つまり基地局から携帯電話機までの仕様を決めた規格です。
このW-CDMAはIMT-2000規格の一つですので、IMT-2000の目標である以下の項目をクリアすることを主眼として策定されました。
・グローバルローミング・一つの端末が、世界中のどこでも使うことができる
・高品質・有線のISDNに近い高音質の会話ができる
・マルチメディアに対応した高速データ通信・最大移動時で384kbps、静止時で2Mbpsの伝送速度の通信が可能
日本と欧州で使われるW-CDMA端末の規格は完全に同じではありませんが、多くの部分でほぼ共通になります。ですから、たとえば日本で買った電話機をヨーロッパやアジアに行っても使えるグローバルローミング機の発売はもちろん、日本のメーカーが欧州に共通の電話機を出したり、あるいは今まで私たちの使っていなかったような欧州メーカーの端末を日本で手軽に入手できるようになる、ということが可能になるかもしれません。
■ W-CDMAもCDMA
このW-CDMAは周波数帯は2GHz帯を使用しますが、名前からもわかるようにこのW-CDMAも、基本原理は、DDIセルラー/IDOがすでに導入しているcdmaOneと同じCDMA方式を使っています。ですので、このW-CDMAもcdmaOneと同じようなCDMA方式のメリットをそのまま受け継いでいます。
たとえば、マルチパスに強い、というのも特長のひとつです。
マルチパスとは、基地局から発信された電波が直接携帯端末に届くだけではなく、色々な建物などの建造物に跳ね返ったりして、いくつもの経路から携帯端末に届いてしまう、という現象で、たとえば都会のビルの谷間などにいるとこの現象に出くわします。電波はとても速いスピードで飛んでいますが、経路によって微妙に飛んでくるときの長さが異なるために、携帯端末に届くまでにかかる時間がずれてしまいます。ですので、ビルの谷間にいると、音声が何重にもこだまのように聞こえたり、実際には基地局から電波が届いているにもかかわらず電波を認識できずに電話が圏外にいるようにふるまってしまうことがあるのです。
CDMA方式の携帯端末では「スペクトラム拡散通信」という原理に基づいていて、このマルチパスでばらばらに入ってきた電波を同期させてより強い電波とみなして使うことが出来るのですが、その特性上、使う帯域を広くすれば広くするほどマルチパスの影響を受けにくくすることができます。つまり、W-CDMA方式を使うと現在市販されているcdmaOne携帯電話よりも、さらにマルチパスに強い電話機を作ることが可能になるわけです。
CDMA方式
さらに、cdmaOneには「ソフトハンドオーバー」と言って、ハンドオーバーがスムーズで切れないという特徴がありましたが、これもW-CDMAにも言える特徴です。「ダイバシティーハンドオーバー」と言って、W-CDMA方式では2つ以上の基地局から電波を同じに受けつつ、レーキ(RAKE=『くまで』の意)受信によってそれをひとつの信号と見なしながら受信することができますし、また、基地局側もいくつもの基地局に届いた電波をひとつにまとめてから回線に流せるので、移動している携帯電話で話している人にとっても、また、その携帯電話を使っている人と話している人にとっても、途切れることなく会話を行なうことができるわけです。
■ 大量のデータを扱えるワイドバンド
W-CDMAのcdmaOneと違う点は、その使用する周波数帯が広いことです。
このW-CDMAは「ダブルシーディーエムエー」または「ワイドバンドシーディーエムエー」を発音されます。つまり、W-CDMAのWはWide band、日本語では「広帯域」を意味しているわけです。同じCDMA方式でも、cdmaOneでは1チャネルあたり1.25MHzに決められていましたが、W-CDMAではその帯域幅を広げて1.25MHz、5MHz、10MHz、20MHzの4種類の帯域幅を用意しています。そして、転送したいデータをこの広い一続きの周波数帯の中に基地局から端末、端末から基地局へのデータの通り道を決めて、この道の中をまんべんなくデジタル信号をばらまくようにしてデータを送るわけです。
データと帯域の関係は、たとえば、水と送るホースの太さの関係に例えることができます。ホースが太ければ太いほど水をたくさん送ることができるように、デジタルデータを信号に載せる際には帯域が広く取れるほうが、たくさんのデータを載せることができるわけですね。
CDMA方式
ちなみに、W-CDMAで使われる5MHzという帯域は、cdmaのおよそ3倍の大きさがあるわけですが、これを利用して1秒あたり最大で2Mビットという大量のデータを送ることができるようになる予定です。これがどのくらいのデータ転送スピードかというと、たとえば、現在動画データのコーデックに「MPEG-4」という方式がありますが、これなどでは384kビット/秒データを送ることができることになっていますので、「ある程度の動画でも余裕で転送することができるスピード」であると考えれば大体間違いないでしょう(なお、NTT ドコモでは来年5月のサービスイン開始時には上り64kbps、下り384kbpsでスタートする予定で準備が進めているとしています)。
また、W-CDMA対応携帯端末では、携帯機での音声や低レートのモデムデータ伝送では、1.25MHzの比較的狭い帯域幅を使用し、2Mbpsの高速信号伝送では5MHzの広い帯域幅を使い、状況に応じてダイナミックにデータの転送レートを変えることができます。W-CDMA対応携帯端末ではGSM-AMR(GSM-Adaptive multi rate:適応マルチレート)という方式で音声信号がデジタル化されるのですが、この方式はPDCフルレートのコーデックであるCELPと同じように、人の声の特長に合わせて信号をデジタル化、データ圧縮しながら、「適応マルチレート」という名前の通り、使える帯域に合わせてデータの大きさを加減して送ることができる方式です。
つまり大きく帯域を取れる状況であればあるほど奇麗な音声で会話することができるようになることでしょう。
■ 実用化間近いW-CDMA
このW-CDMAはNTTドコモを中心にさまざまな実験がすでに行なわれ、実用化間近のところまできています。世界での共通規格であるIMT-2000ですが、世界に先駆けて、日本ではNTTドコモがW-CDMAを使用した次世代携帯電話サービスを2001年5月末頃を目途に、東京23区、横浜市、川崎市で開始する予定です。
KDDI
http://www.kddi.com/
ケータイ Watch
http://k-tai.impress.co.jp/column/keyword/2000/08/01/
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