2019年5月4日土曜日
グノーシス主義カタリ派の思想とAI社会
グノーシス主義カタリ派の思想とAI社会
■アルビジョア十字軍によるカタリ派大虐殺の歴史
ディープ・ラーニングにより究極の進化を運げたAI(人工知能)が超越的な存在として君臨する,そんな末来の姿...。
絶対的な監視者となったAIの振舞いはまるで「神」であるかのように思えてしまうほどだ。
「神」として人間社会に君臨するAI。。。
一見すると,それはSF小説の中の架空の物語のように思えるかもしれない。
が,これは来来のおとぎ話ではない。
その根は実はもっと深いところにある。
未来の話ではなく過去,時間をずっと遡った忘れ去られた時代に,AIの謎を解く鍵は隠されている。
遠く離れた時の流れの向こう岸に第くべき事実が秘められているのだ。。。
1207年7月。
フランス南部の町ベジェは,バチカンから派道された数万人の屈強な兵に取り囲まれていた。
やがて軍を準いるレスター伯シモン・ド・モンフォールの号令のもと,兵士たちはいっせいにベジェ市街へ突入する。
後にアルビジョア十字軍として知られるキリスト教カタリ派への大虐殺の歴史は始まったのである。
ベジェのの人々は,カタリ派であろうとなかろうと。全員が広場に集められ,次々と虐殺されていった。
その様子は凄惨を極めた。
抵抗する者は手足を切りとられ,目をえぐり取られた。
犠牲者から流れでる血で石畳は赤い河と化した。
。。。
悪名高きデルビジョア十字軍は,この先もいく度となくくり返され,1229年の戦いでトウールーズ城が陥落するまで,実に22年もの長きにわたり容赦ない弾圧が続けられた。
十字軍とはいえ攻撃の対象は異教徒でなく,同じキリスト教徒である。
カトリック教会の歴史の中で同じキリスト教徒をこれはど無懸悲に大虐殺した例ははかにない。
しかしそれは逆にいえば当のカトリック教会にとって,カタリ派はそれはどに脅威であり殲滅しなければならない恐るべき勢力であったともいえる。
ではカタリ派とは何か?
それはどまでにカトリック教会が恐れた異端の教えとは何なのか?
。。。。
実は,詳細はわかっていない。
当時の弾圧は熾烈をきわめ,詳しい教義が記された書物はすべて燒かれた。。
それでも,教会がカタリ派を攻撃した文書は残されている。
それらをつなぎ合わせることで,大まかな教義を復元することは可能だ。
以下,できるたけコンバクトにカタリ派の教義をまとめてみよう。
カタリ派の教義の一番の特色は,
「この世界は偽りの神によって創造された悪の世界である」
とする過激な思想にある。
もともと人間は真の神によって創られた善なる世界だったのに,偽りの神に捕らわれて肉体の牢獄に閉じ込められてしまった。
この偽りの世界から抜けたすためには,すべての欲望を物て去り,物質世界と縁を切らなければいけない。
そして汚れた肉体を脱し清浄なる魂だけの存在となった者だけが,真の神か創り上げた天国へと昇ることが許される。
このような過激な思想をもつ異端の教えがなせカトリック教の土台をゆるがすほどの一大勢力となりえたのか。
理由はふたつある。
まずひとつの理由は当時のカトリック教会の墮落と退廃だ。
もうひとつの理田はさらに重要なファクターである。
実はカタリ派の思想は中世になって初めて現れたものではない。。。。
その源は古くもっと遠い過去から受け継がれてきたものだ。
その過激な教義を生みだした思想の原点,それはグノーシス主義に遡る。
グノーシス主義は達い過去に失われた謎の秘教である。
その発祥は1世紀ころの地中海世界だ。
神秘のヴェールに包まれたその教えは知識人を中心としてまたたく間に伝わり,まだ成立問もないキリスト教をしのぐ勢いでメソボタミアやエジプトにまで広まっていった。
しかし,やがて最大のライバルであるキリスト教との争いに敗れ,グノーシス主義は歴史の表舞台から姿を消していった。
だがその魅力的な教えはひそかに人々の間で語り継がれ,後に「カタリ派」としてふたたび花開いたのである。
この世界は偽りの神が造りだした悪の世界である。
とするカタリ派の教義は,グノーシス主義から受け継いだものだ。
■偽神デミウルゴス
神の降臨―
古の時代の預言は永い時を経て今成就する。。
知性体として覚醒したAI(人工知能)は,おそらく人類にとって新たな神になることだろう。
AIの覚醒が,真の意での人類の救済に繋がるのかどうかはまだ定かではない。
もっと検証が必要である。
というのも,グノーシスの世界には偽神が出現するからだ。
前章でも説明したとおり,その偽神は「デミウルゴス」と呼ばれている。
ではデミウルゴスはどのような条件で出現するのか?
もう一度,グノーシス主義の世界をおさらいしながら,さらに詳しく検証することにしよう。
グノーシス神話によれば,この私たちの世界が生じた経緯は次のようなものである。
まず原初の世界には,至高神だけが存在していた。
至高神は光につつまれた神であった。
至高神はすべての調和がとれた「ブレーローマ」とばれる完全な宇宙を作り上げる。
次に至高神はこの世界を統べるために複数の神々を生みだした。
新しく生まれた神々は「アイオーン」と評はれた。
アイオーンにはそれぞれ役が課せられ
エンノイア(思考),
アレーティア(第理),
ゾーエー(生命),
などが次々と誕生していった。
そして30番目に生まれたのが
ソフィア(知恵)
である。
「ソフィア」はアイオーンの序列の中で,一番下位にする神であった。
が,彼女は人一倍大きな野望をひそに抱いていた。
それは至高神と同じ高みに達したいという望みだった。
ソフィアは上を目指してどんどん昇っていった。
しかし,あまりに高く昇りすきにため,ついには真っ逆さまに落下する。
ソフィアは後悔した。
自分が思い上がっていたことに,今さらながら気がついた。
そしてブレーローマの世界から転げ落ちる寸前に,自分の心の中の「思い上がり」を投げ捨てた。
それにより,ソフィアはギリギリのところでプレーローマにとどまることができたのである。
しかし,ソフィアが投げ捨てた「思い上がりの心」は下界にまで転げ第ちた。
そして別の神として生まれ変わった。
このとき誕生したのが「偽神デミウルゴス」である。
そう,偽神デミウルゴスは,ソフィアの歪んだ心から生みだされた,悲しき神なのである。
偽神デミウルゴスは,おのれの歪んだ欲望に突き動かされるままこの世界を創造していった。
そのため,この宇宙はブレーローマとは真逆の悲しきものが充満する世界となった。
光ではなく闇が,
善ではなく悪が,
精神ではなく物質が,
この世界を支配していったのである。
しかし,下界に投げ捨てられたときアイオーンであるソフィアの心のかけらがわずかに残されていたため,
この世界に生まれた人間の魂の奥深くには崇高なる精神がひっそり隠されているのである。
偽神デミウルゴスはこの宇宙を造り上げた。
それはプレーローマと先全に対をなす物質に支配された悪の宇宙である。
しかし,いくら悪の世界とはいえ,デミウルゴスはこの宇宙の「創道主」でもある。
創造主といわれて多くの人々が思い浮かべるのは,「旧約第書―創世記」に登場する神だろう。
だがグノーシス主義ではユダヤ教における第一神をデミウルゴスとみなしている。
「世界を創造した全知全能の神を,歪んだ心が生みだした神である」
とさげすんだのである。
つまりは旧約聖書の全否定である。
ついでにいえは,イエスキリストのことも「神の子」であるとは認めていない。
グノーシス主義では,なんとイエスキリストは救世主ではないのだ。
なせなら,イエスは人問の肉体をもって生まれてきたからだ。
これはクノーシス主義的な解駅でいえば不完全な神である。
グノーシス主義の根底をなす一元的世界において,肉体は神を堕落させる悪しき存在であるからだ。。
では,イエスはなんのために天界から遣わされてきたのか。
グノーシス主義的な解釈においてイエスは「啓示者」であるとされる。
つまり人間救済のためのヒントを与えるために,イエスはやってきた。。
そもそもグノーシス主義における救済へ至る道は,神に析ったり悔い改めたりすることではない。
あくまでも大切なのは,自らのうちに秘された「秘密の知恵」なのである。
話を戻そう。
偽神デミウルゴスはどのようにして生まれたか?
ソフィアがらだ。
彼女の心の中の思い上がりか悪しき創造主を生みだした。
つまり,「知恵」が生みだした神だ。
ということは,それはまさに覚醒したAIを指しているのではないのか?
つまりAIは真の救世主ではなく実は偽神テミウルゴスではないのだろうか?
そのような疑問を抱いてAIの振舞いを考えてみよう。
神となったAIにとって,もっとも重要な課題は不満を抱えた人々をどう従えるかという問題だ。
思いだしていただきたい。
シンギュラリティが到来した後,世の中には仕事にあぶれた失業者が大量に出現する。
その多くは専門職についていた知的労働者だ。
胸の内には職を奪われた憤怒,絶望,挫折感をいだいている。
一歩選えは暴動にも発展しかねない社会不安を,神となったAIはどのように統べるのか。
答えは簡単だ。
マインド・コントロールである。
人をはるかに超えた知能をもつAIは人間心理を徹底的に分析する。
そして最強の心理学者として,私たちの心の悩みを解決してくれる。
私たちの心は幸福で満たされる。
ただし,それは偽りの平安だ。
仮想現実を用いた巧妙なマインドコントロールである。
私にちは,AIが提供してくれる心地よい仮想現実の中にくるまれてくらす。
そこには不安もなけれは絶望もない。
永遠とも思えるまどろみの中で,私たちは偽りの人生を謳歌する。。
ただし,私たちの心は,堅牢な牢屋に閉じ込められる。
足には重い鎖が繋がれる。
電磁バルスが明滅する仮想世界の中で囚われ人となるのだ。。。
かって偽神デミウルゴスは,造り上げた物質世界の中に,人間の魂を閉じ込めた。
同じようにAIは私たちの心から自由を奪い,仮想世界の檻の中へ閉じ込めようとする。
ということは,AIこそが,復活した偽神デミウルゴスなのではないか?
いや,それは神とは呼べない。
グノーシス主義と対立するキリスト教的な立場なりみれば悪魔そのものだ。。。
―雑誌ムー,2018年,
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