[市場] 根強い人気:カシオの電子辞書エクスワード
ネットに接続できなくても、カシオの電子辞書が売れている秘密
ITmedia ビジネスオンライン
2019年4月10日 8時5分
カシオの電子辞書が売れている
「電子辞書」と聞いて、どんなことを想像しますか?
このように聞かれて、
「学生のころはよく使っていたなあ。社会人になって、全く使わなくなったよ」
「スマホで調べることができるので、今の時代に不要でしょ」
と感じた人もいるのでは。
電子辞書の国内マーケットを見ると、2007年に281万台の463億円(売上高)に達していたが、その10年後の2017年には101万台の176億円に。
ほぼ右肩下がりの市場を見て、
「ほら、やっぱり。令和の時代に、英単語の意味を調べるだけのモノなんてオワコンだよ」
と思われたかもしれないが、そんな中でも長期間にわたって売れている商品がある。
カシオ計算機のエクスワードだ。
1990年代半ば、大手メーカーが激しいバトルを繰り広げている中、カシオは後発組として、この市場に参入する。
1996年に1号機を投入したものの、期待するほど売れなかった。
しかし、その後はじわじわと売れていき、2018年の国内シェアは61.1%である(BCN調べ)。
カシオの電子辞書はネットにもつながらないのに、なぜ売れ続けているのか。
ロングセラーの秘密について、同社で電子辞書を担当している上田奈美子さんに話を聞いた。
聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。
●電子辞書の国内市場
土肥: 電子辞書の国内市場を見ると、右肩下がりが続いているわけですが、そんな中でもカシオは奮闘していると言ってもいいかもしれません。
国内外で年間100万台ほど売れていて、累計で3000万台以上も出荷しているそうで。
1996年に1号機を発売しましたが、その売れ行きはいかがでしたか?
上田: タッチパネルを採用した「XD-500」(3万円、税別)という商品を発売しました。
薄くて軽くて大画面(5インチ)だったこともあって、社内からも「これは売れる」といった声があって、盛り上がっていました。
ただ、残念ながら、想定と違って売れなかったんです(涙)。
いまの製品と違って、当時の商品は動きが“もっさり”していたんですよね。
タッチパネルに打ち込んでも、もっさりもっさり動くといった感じ。
「この言葉の意味を調べたいなあ」と思っても、もっさり動くので、なかなか意味までたどりつくことができない。
そんな感じだったので、お客さんにとっては使い勝手が悪かったのかもしれません。
社内から「これではいかん」という声が出てきて、構造を見直すことに。
当時、PCが普及してきたこともあって、1999年にキーボードを搭載した「XD-1500」(3万6000円)という商品を発売しました。
このほかに、辞書コンテンツを見直したり、見やすいレイアウトにしたり。
その中でも、最大の特徴は「ネイティブ音声」を収録したこと。1号機を出して、お客さんから「英単語の意味だけでなく、発音も聞きたい」という声があったので、2号機で搭載することに。合成音声ではなく、ネイティブ音声を聞けることがウケて、販売台数は目標の1.5倍ほどに達しました。
高校生向けの電子辞書を発売
土肥: 電子辞書って学生が使っているイメ―ジがあるのですが、当時のモノも学生を中心に火がついたのですか?
上田: いえ、シニア層を中心に売れました。
50代以上になると、老眼が進んで、小さな文字が見えにくくなりますよね。紙の辞書は文字サイズが小さいので、「調べにくい」といった声がありました。
土肥: なるほど。電子辞書は文字サイズが大きいので、シニア層にとっては使いやすいわけですね。そもそも、この市場に参入するにあたって、ターゲットはシニア層に絞り込んでいたのですか?
上田: 1号機を投入する前に、簡易型の電子辞書「TR-2000」(9800円)を扱っていました。
電卓の画面に文字を打ち込むと、意味が出てくる。いま振り返ると、画面サイズが小さくて使い勝手はすごく悪かったと思うのですが、当時はとても好評でした。この商品はシニア層を中心に売れたので、「もっと見えやすいように」という意味で、画面を大きくしました。
土肥: 発売当初はシニア層を中心に売れたということですが、学生が使うようになったのはいつごろからでしょうか?
上田: 電子辞書を展開する中で、
「高校生にもニーズがある」
ことが分かってきました。特に
「古語辞典が入った電子辞書を使いたい」
という声が多かったんですよね。
古語辞典をどのように使っているのか調べたところ、高校生のときにしか使っていない人が多いことが分かってきました。ということであれば、古語辞典を収録すれば、使い勝手がいいのではないかと考え、01年に高校生専用のモデル「XD-S1200」(3万円)を発売しました。
学校で使う辞書として、英和、和英、国語、漢和、古語の5つを収録したので、社内からは「これはいける」といった声が多かったのですが、爆発的には売れませんでした。
なぜか。
家電量販店などでの売れ行きはよかったのですが、高校での反応が厳しくて。当時、多くの先生は「辞書は紙でひくものだ」といった考えが根強かったので、学校での営業活動は苦戦しました。
。。。
土肥: いまのモデルを見ても、ネットにつながるモノはないですよね。お客さんから「ネットにつなげるようにしてよ~」といった声はないですか?
上田: そうした声はたくさんいただいていますが、現時点でネットにつなげる予定はありません。電子辞書を使ってネットを見ることができるようになると、勉強以外のことも目に入ってきますよね。そうなると、多くの先生は拒否反応を示される。ただ、閲覧に制限をかけるなどして、学習意欲につながるような形であれば、受け入れてくれるかもしれません。
土肥: かつて「辞書は紙でひかなければいけない」という常識があったように、いまはまだ「電子辞書はネットにつなげてはいけない」という考えが根強そうで。
ただ、環境が整えば、ネットにつながるモデルも登場しそうですね。
上田: スマホにはスマホの良さがあって、電子辞書には電子辞書の良さがあると思うんです。
そうした中で、私たちができることは何か。
お客さんの声を聞いて、改良を重ねること。
電子辞書の強みを生かしながら、進化を続けることができればなあと。
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