[創作][2ch] ケータイの中だけの恋愛
ケータイの中だけの恋愛
ある日、2ちゃんねるに『ケータイの中だけの恋愛』というスレッドが立った。そこで生まれた恋愛物語たち。
きっとあなたの心に響く何かがあるはずです。
◆ケータイの中だけの恋愛
✔タカシと美紀の物語
✔付き合ったとはいえない恋愛
✔星と姉さんとみっちゃんの物語
✔僕の心を解放した恋愛~あやについて
~本 編~アヤについて~
そのうち更新されるでしょう。。。
✔ケータイの中の/喫茶店の中の恋愛
喫茶店店員とお客さんの恋物語
✔一年間の『ありがとう』
大地の甘酸っぱい盛春(もりはる)恋物語
✔福音
人間嫌いな性格を変えてくれた彼女への感謝、そして・・・・
感想・応援・足跡掲示板
過去ログ
ケータイの中だけの恋愛
ケータイの中だけの恋愛 2
【聞こう】ケータイの中だけの恋愛3【じゃないか】
【聞こう】ケータイの中だけの恋愛4【じゃないか】
【聞こう】ケータイの中だけの恋愛5【じゃないか】
ケータイの中だけの恋愛
http://lovekeitai.fc2web.com/takashi_2.html
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◆タカシと美紀の物語
1 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:05:33 ID:K04dU7v/
3ヶ月くらい前にケータイにメールが入った。
社会人2年目で学生時代の友達とも連絡が途絶えがち。
会社の同期とかとはあまり気が合わず、おまけにここ1年くらい彼女もいない。
最近入るメールといったら出会い系の迷惑メールくらいで、その日も会社帰りの電車の中で疲れきった状態でそのメールを見たんだ。
4 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:09:52 ID:K04dU7v/
ただの広告メールだと思って開いた。
案の定広告メールだったんだけど、内容は普段来るような奴とは一風変わっていた。
内容を要約すると月2万で20歳の女の子がメル友になってくれるというものだった。
「癒してあげます」という言葉に俺はひかれた。
もう毎日仕事で疲れきっていて、少しでも癒されたかったから。
申し込みのURLが貼ってないのも普通の出会い系のメールとは違ってた。
どこにも連絡先が書いてない。
とりあえず偽装のメルアドかどうか確かめようと思ってそのメールに返信をしてみた。
内容はどのくらいの頻度でメールくれるの?っていう質問。
7 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:16:32 ID:K04dU7v/
返事はすぐに来た。
返信はできるだけすぐに返すし、こっちからもメール出したりもするよ、という内容だった。
正直に言って、こんなメールのやりとり自体が久しぶりだった。
ずっと仕事のメールと迷惑メールしかこなかったからね。
ただそもそも、相手が本当に女なのかもわからないし、やっぱり怪しさ十分だった。
あとで変な請求書が来たりしないかな、と詮索してたらまたメールが着信した。
「とりあえず3日間お試し期間として無料で相手してあげるから、それで決めて」
フリーメールでもないし、携帯の生アドレス同士。ちなみに俺はSE。
これで架空請求みたいな詐欺に合うことはないだろうと踏んで、俺はそのお試し期間
とやらをお願いし、メールのやりとりが始まった。
9 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:23:29 ID:K04dU7v/
メールのやりとりは、まずお互いの自己紹介から始まった。
まずはお互いの名前。当然偽名。
俺は隆と呼んでもらうことにし、向こうは美紀と名乗った。
自分が会社員でSEであることなど、経歴を正直に書いていった。
向こうは仕事については秘密だそうだ。案外これだけが収入源だったりするのかも知れない。
暇な主婦がやってるかも知れないし、実は無職のおっさんが相手かも知れないが、そのあたりは気にしないことにした。
いつも死ぬほど長く感じる電車が、その日はあっという間に自分の駅へと到着した。
それだけでも何か癒された気になった。恋愛は老人のボケ防止にいいと言うがきっと本当なのだろう。架空の有料擬似恋愛のメールでも俺の気分は随分とフレッシュになった。
12 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:28:57 ID:K04dU7v/
ちょうど電車が駅に付く頃、メールの返事もダレてどうでもいい内容になってきた頃だったので、返信せずにメールのやりとりを一旦終了させた。
家に着くといつもの散らかったアパート。
とりあえず風呂にお湯を張り、着替えてお湯に使った。
少し冷静になり、メールの相手のことを考えた。
まず気になったのはどうやって俺のアドレスを知ったのか。
名前に誕生日というオーソドックスなメルアドなので、たまたまなのかということ。
あとはやはり本当に女なのかということだけが気になった。
25の仕事漬けの彼女もいない男が、おっさんとのメールに喜んで金払ってたら悲しすぎるからね。
14 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:37:24 ID:K04dU7v/
風呂上りにメールを出した。
「とりあえず、何か美紀が本当に女だってことを証明できないかな?
メールだけだと性別もわからないから、これじゃちょっとね」
しばらくメールを待つ。この感じも久しぶり。なんて返事してくるんだろうという期待感と、怒らせるようなことを書いてしまったのではないかという不安感が
入り混じった、苦しくも心地よい感覚。メールをまつ5分が10分にも15分にも感じられる。
しばらくするとメールが入ってくる。
「パソコン用のマイクついたヘッドホンか何かある?
それで声聞いてもらえば証明になるかな」
なるほど。こっちとしても電話番号は教えたくないのでこれなら確認できるだろう。
もしかしたら偽者を用意されるかもしれないけど、夜の12時近くにそんな手際よく代打をたてるのも難しいだろう。
俺はそれで納得し、あとはお互いにスカイプの捨てIDを登録してメールで連絡しあった。
15 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:45:58 ID:K04dU7v/
ログインしてPCの前でしばし待つ。
美紀らしい人物から承認依頼が来て、OKをするとすぐにコールが鳴った。
「もしもし」
「はい」
「もしもし、隆、聞こえる?」
何のためらいもなく呼び捨てにされる。まあ擬似恋愛なのだから
「さん」づけや「君」づけではおかしいんだが。
「うん、聞こえてる」
「どう?ちゃんと女の声でしょ?」
「うん、女の子だね」
「疑り深いねえ、まあ仕方ないけど」
意外と若い声。ちょっとギャルギャルしい話し方。
俺とはあまり縁のないタイプの人種。
「若いね、声とか話し方とか」
「そうかな?でももうこれ以上は無しね。ケーヤクガイだから。ではとりあえず3日間、メールよろしく。」
挨拶をしてスカイプは切れた。意外とサービス内容については厳しいようだ。
まあメールの方で品質が伴えば問題はないんだけどね。
18 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 21:55:58 ID:K04dU7v/
コンビニ飯を腹に納めながらテレビを眺める。
しばらくしてメールが着信。
「女だってことは納得してもらえたかな?もう寝るね。オヤスミ」
元カノと別れたのが社会人になってすぐの頃だから、約1年ぶりの
オヤスミメール。
「オヤスミ。その内、顔も見せてもらいたいな」
調子にのって写メを要求してみる。
「顔は無理~。今度こそ本当にオヤスミ」
メールのやり取りだけだと完全に恋人気分。
これなら2万払ってもいいかなと思う。寂しい男だと思われるだろうけど
女運と言うのは一度離れてしまうと中々戻ってこないもの。
最近じゃ合コンの誘いも少ないし、仮に誘われてもドンドン消極的になってる自分がいる。
21 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 22:09:10 ID:K04dU7v/
その夜考えてたことは、お金の支払方法。
まさか携帯会社から請求はこないだろうし、カード決済も無理だろう。
そうなると振込みか手渡しになるのかな。などなど。
お金で手に入れる奇妙な関係。傍から見ればこれほど虚しいものは
ないんだろうけど、俺はまるで久しぶりに彼女でもできたかのような気分で久しぶりに上機嫌で眠りについた。
翌朝はいつもどおり6時起床。朝食は食べない方。
7時ちょい過ぎの電車に乗って出勤。
8時近くになって、まだ次第に混雑がひどくなる電車の中で携帯が震える。
「おはよー。もう起きてるよね?出勤途中かな。仕事がんばってね」
おはようメールまでくれるとは中々仕事熱心な業者さんだ。
ただ、鉄の棒を握って社内の混雑に耐えてるお兄さんには、メールは読めても返事は書けないんだな。しばしお待ちを。
電車を乗り換えるターミナル駅で歩きながら返信。
「電車混んでて返信できなかった、おはよう。もうこの時期は車内蒸し暑くて地獄だよ」
22 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 22:17:59 ID:K04dU7v/
またすぐに返信。
「あたし満員電車は絶対ダメ。もうせまいし気持ち悪いし、この季節は特にダメ」
ここまで強調するってことは、満員電車には乗ってないんだろうな。
これでOLとかの線は消えた。フリーターかニートかも知れない。
いやでもこのメールも「仕事」だからニートではないか。
こんな風にして、メールのやりとりは始まった。
ただ困ったのは話題だった。基本的に向こうの素性は明かして貰えないので、質問はNGになってしまうことが多い。
あとは恋人同士なら週末にどこに行くかとかで盛り上がれるんだろうけど、顔を会わせることの無い俺たちには無理な話題。
擬似恋愛の弱点がお試し期間中にすでに露呈。
そして3日が過ぎて、その日の朝にお試し期間終了のメールが来る。
「3日たったけどどうする?月2万で続ける?」
「ちょっと考えてもいい?」
「いいよ。できたら今日中に返事ちょうだい」
24 :名無しさんの初恋 :2005/10/28(金) 22:24:27 ID:K04dU7v/
とりあえずこのメールが月2万に値するかを考えた。
とりあえず、彼女もいない残業だらけのSEとしては、別にこのくらいの出費は痛くない。
そしてなんというか、メールをやりとりする恋人のような存在がいると、例えそれが
お金で買った擬似的なものであっても、頭のキャパが結構そっちに裂かれて、それがいい具合に仕事のストレスを軽減してくれるのだ。
すぐに話題が尽きるような気もするし、やりとりがワンパターンになって飽きるかもしれない心配もあった。でもまあその時は解約させてもらえばいいか。
その日の帰りの電車で俺は返事のメールを送った。
「あなたを私の有料メル友として採用いたします。ではしばらくの間よろしく。」
「やった!こちらこそよろしくね!」
メールの文面からも向こうの喜んでる様子がよくわかった。
顔がわからないのでイマイチ想像力がかきたてられないのが残念だったが。
61 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:00:25 ID:DV3GgTKn
こうして月2万の有料擬似恋愛の契約が結ばれ、話は料金の支払方法へと移った。
支払は毎月先払いで支払い方法は振込みとのこと。
メールで振込先が送られてきて、俺は翌日中に振り込むことを約束した。
翌朝、通勤途中にATMに立ち寄り、連絡のあった口座にお金を振り込んだ。
連絡があったのは、銀行と支店とと口座番号の4つ。
口座の種別と名義人名は書いていなかった。
口座はとりあえず普通口座を選択して、口座番号を入力した。
振込先の確認画面で出てきた口座の名義人名は「ワカバヤシ ミカ」。
美紀とミカ。これが本人の口座だとしたらいかにも安易につけた偽名だ。
ひょっとして振り込む時に名義人名が出てしまうことを彼女は知らないのだろうか?
最初のメールを貰った時から、どうも素人くささが漂う。なんらかの組織に所属してやるなら自分の銀行口座に直接振り込むなんてことはないだろう。
だいたい、広告メールを自分の携帯の本アカで送るなんて危なっかしすぎる。
今、俺とやりとりしてるアドレスは最初の広告メールを送ってきたアドレスそのままなのだ。
62 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:15:28 ID:DV3GgTKn
彼女とのメールは初めの内はルールがわからず戸惑うことが多かった。
設定としては恋人同士がするメールなのだが、彼女の仕事などの現在の
状態について聞くのはNGらしい。
その代わり、「今何してるの?」といったような当たり障りのない内容なら無難な返事が返ってくる。あとは彼女の現在の話はダメでも、過去の思い出話なら平気だということも分かってきた。
俺の方はと言えば、特に隠し立てするようなこともないので、実名や会社名こそ出さないものの、話したいことをどんどんとメールに書き連ねていった。
過去の恋愛、仕事の愚痴、最近見た映画、テレビの話。
メールの往復は一日数十回。もし俺以外にも客がいるとしたら、彼女は一日何通のメールをやりとりしているのだろう。キーボードならともかく携帯でそんなに大量のメールをさばけるのだろうか。
しかし声の感じからすると、彼女は二十歳かそれ未満に感じられた。この世代は中学校から携帯を持っててもおかしくない世代。親指タイプ暦6年。しかも中学生というもの覚えのいい時期から始めているんだ。そのくらい出来てしまうのかもしれない。
おそるべし、親指タイプライター。
64 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:30:50 ID:DV3GgTKn
彼女のメールは実にマメだった。
朝のオハヨウメールから始まり、通勤電車、仕事の休憩時間、家に帰ってから寝るまでの間。
返信は光の速さで返ってくる。待たされることはめったにない。1回のメールのボリュームも少なすぎず多すぎず、話の内容も楽しかった。なんというか、彼女は聞き上手なのだろう。
メールで『聞き』上手というのもおかしいかな。正しくは『読み』上手?
会社でも喫煙所で頻繁にメールをしている俺の姿が目立ったらしく、「彼女できたんですか?」
とからかわれることが、たびたびあった。さすがにそこで「彼女ができた」というのははばかられ、「いや、友達ですよ」と返事をしていた。だが暇さえあればメールをしている俺の姿から、社内では気がづけばすっかり彼女持ちとして認識されるようになっていた。一度も肯定してないん
だけどな・・・・。
現在の彼女の素性を聞いてはいけないというNGはあったものの、それでもお互いのことはしだいに理解が深まっていった。どちらかというと慎重派で穏やかであることを望み、我慢強い俺に対し、明るく自由奔放で、我慢をすることが嫌いな彼女。人間、自分と似てない相手の方が魅力的に感じるのだろうか。自分と違って社交的な印象を受ける彼女に俺はどんどん好感を持っていった。
66 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:44:08 ID:DV3GgTKn
どこかで読んだ話によると、人間はその時、最も接触回数の多い異性に恋愛感情を抱きやすいらしい。メールでのやり取りが『接触』と呼べるのかは定かではないが、俺が彼女に恋愛感情を抱くのは時間の問題だった。
顔も知らない、声だってほとんど聞いたことない相手なのにね。
おかしいでしょ?
最初のひと月が経つ頃には、俺はメールだけのやり取りでは満足できなくなっていて、顔も知らない彼女への想いで胸を苦しませていた。
ある夜、恒例のオヤスミメールの時、俺は思い切って「オヤスミ、美紀。好きだよ。」
と送ってみた。返信は即座に帰ってきて「あたしも隆が好きだよ。おやすみ~」と書いてあった。
自分でやっておいてこんなことを言うのもなんだが、虚しくなって後悔した。
恋人同士という設定での有料メールなのだ。「好きだ」と言えば「好きだ」と、「愛してる」と送れば「愛してる」と返事が来るに決まってるのだ。
「そうじゃない、顔も見たこと無いのに君のことが本当に好きになったんだ」
そんなメールは送れるはずもなく、俺の胸の苦しさはどんどん締め付けがきつくなっていった。
71 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 09:28:48 ID:DV3GgTKn
最初の1ヶ月が経ち、2月目をどうするかという話になった。
毎月10日は契約更新の日。支払はお早めに。
当然のことながら、この有料メールの生活にはまってしまっていた俺は
契約の延長を申し込んだ。そして彼女にちょっと無理なお願いをした。
有料メルカノは今後も続けたい。
でも美紀の顔写真が欲しい。
ピンボケしててもいいし、遠くから写して漠然としか顔が分からなくてもいいからと。
当然彼女は断ってきたが、相手のイメージすら全く分からないのでは、擬似恋愛に感情移入がしきれないと説明し、俺は交渉を粘った。今にして思えば、偽者の恋愛に感情移入をすることは愚かな行為でしかないわけだが。
しばらく考えさせてと彼女は言い、1時間後、写メが添付されたメールが送られてきた。
写真はピンボケもしてなくて、顔がはっきりと写っていた。
もっと派手な感じを想像していたが、大人し目の髪の色と、可愛いというより美人系の整った顔立ち。
72 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 09:43:28 ID:DV3GgTKn
「本当に本人なのかな」と疑いながら送られてきた写メを眺めていると、
そんな俺の心を見透かしたかの様に、2つ目の写メが送られてきた。
今度の写メではさっきの写真と同じ女の子がメモを持っている。
『8/10 美紀(ハートのマーク)』
これで本人確定。俺はすぐにお礼のメールを送った。そして自分で要求して
おきながら「こんなちゃんと顔が写ってる写真送って大丈夫なの?」と彼女を
心配するメールを送った。矛盾する言動。馬鹿丸出し。
彼女が言うには、写真を送ってそれがネットとかに出回らないかが心配だったのだと言う。でもこのひと月メールをしてみて、俺はそういうことはしない人間だと判断してくれたのだという。顔を見せること自体は別に嫌ではないらしい。
信用してもらえたのは嬉しかったけど、それでもやっぱり無用心すぎると思った。
ひと月やそこらで、しかもメールだけのやりとりなんかで相手を信用しちゃダメだ。
自分の彼氏だって結構危険。でないと、ネットに出回る数々のハメ撮り写真の説明がつかない。付き合った相手だって、別れ際がこじれたら、何をしでかすかわからないっていうのに。
その夜は彼女にオヤスミメールを送った後も、なかなか寝付けず、彼女の写メをベッドの中で眺めて、メールの相手が思いのほか美人であったことに、なんだか得した気分を味わっていた。
74 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 09:59:53 ID:DV3GgTKn
その頃俺は、よく「恋愛感情とはなんなのか」についてよく考えていた。
何をもって、その対象を「好きだ」と人は感じるのだろうか?
顔だろうか。内面だろうか。生物学的には性交できる確率が高いと
そうなるんだろうか。
だとすれば、俺が彼女とセックスできる確率は果てしなくゼロに近いわけだが、それでもその時点での俺の交遊範囲のなかで、もっとも交流の頻度が高い美紀を、俺の脳は最もセックスできる確率の高い相手としてはじき出し、彼女に対する恋慕の情を生み出しているのかもしれない。
そんな風に、どんなに考えて彼女への恋愛感情を正当化しようとしても、一歩下がって客観視すれば、俺は金で買ったメールを喜んでいる寂しい男なのだ。そんなことはずっとわかっていて、だから彼女が俺のことを「信用」して、顔写真を送ってくれたことがよほど俺には嬉しかったのだろう。
このメールのやり取りは、初め思っていたほどビジネスライクなドライなものではない。
やり取りを重ねていくうちに向こうも段々と情を通わせてきている。まあ情と言っても恋愛感情とは程遠いかもしれないけど。キャバクラに通う人の気持ちが少しわかった気がした。
そして自分の嬉しさの表現と、写真の俺をかねて、俺は翌日3万円を振り込んだ。
……
673 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 16:00:43 ID:ZqihJCh5
そしてその週の金曜日、川嶋さんからメールが届いた。
「ミカからの手紙を預かってるんだけどどうする?」
本来、更に俺の家に郵送してもらうのが一番迷惑がかからないのだろうけど、その時の俺にはそんな余裕はなく、その日の9時にバイト先のある駅で川嶋さんと待ち合わせをした。
仕事はたくさん残っていたけれど、周囲に謝り倒して無理やり会社を出た。
駅の改札にはすでに川嶋さんが待っていて、青い便箋を俺に渡してくれた。
俺はその場で便箋を破いて手紙を読み出しそうな勢いだったが、「家でゆっくり読みなよ」との川嶋さんの言葉で少し冷静さを取り戻し、その勧めに従うことにした。
川嶋さんには何度も何度もお礼を言い、俺は家路を急いだ。期待と不安が頭のなかで交錯し続け、晩飯も買わずにアパートへと直行した。
部屋に入ると急いでハサミを探した。俺は手先が不器用な方なので、便箋を手で破くとしょっちゅう中身の手紙まで破いてしまうのだ。それにしてもどうしてハサミというやつは、こう必要な時に限って見つからないのだろう。
5分ほど散らかった部屋を家捜しし、俺はようやく見つけたハサミで便箋をあけた。
久しぶりに受け取る彼女からのメッセージ。
695 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 16:18:16 ID:ZqihJCh5
手紙の内容は概ねこんな内容だった。
まず、俺がバイト先を訪ねて驚いたこと。そしてそんなに俺を狼狽させるほど唐突な別れを切り出してしまい、それについてのお詫び。
その次には川嶋さんからすでに聞いていた、実家に帰らなければならなくなった事情について書いてあった。そしてたぶん、地元で就職することになるということ。
そしてようやく俺とのメールを止めることになった理由について書いてあった。
メールは元々、足りない生活費を補うために始めたこと。初めの内は、なんとか俺のことを楽しませようと努力していたこと、結果、自分はあまり楽しくなかったこと。
メールを続けていくうちに、彼女にとって、俺とのメールが生活の一部になりだしたこと。
そして段々と俺からのメールを待ち遠しく思うようになっていったこと。
相談にのってあげられて嬉しかったこと。話を聞いてもらって感謝したこと。時には仕事がきつそうな時に、俺のことを本気で心配したこと。
そんな彼女の側から見た気持ちの移り変わりが書いてあった。
しかし俺とのメールが彼女にとっても支えになるにつれて、お金をとっているという事実が彼女を苦しめた。そして月に2万ではメールの通信料を差し引けば、生活費を補うのに十分ではなかった。毎月貯金の残高は減っていき、自分の東京での生活は長くないことを
彼女は自覚せざるを得なかった。
714 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 16:32:12 ID:ZqihJCh5
その内、メールの中に「好き」だとか「愛してる」といった単語は入りだし、びっくりしたこと。本気なのかどうか驚いたこと。そして段々と俺に対して恋愛感情を抱くようになっていったことが書いてあった。
「一回接客したことがあるだけで、メールしかしたことないのにおかしいでしょ?」
俺が感じていたことと、まったく同じことが書かれていた。
そして一度は俺と直接会って話したいと思っていたこと。お金をとるのなんてやめて一から人間関係を作りたいと思っていたこと。でもそれにはもう時間が足りないことが書かれていた。
それでもどうしても会いたくて、バイト先の送別会の会った夜、酔ったはずみでとうとう俺に電話をしてしまったこと。俺はすぐに迎えに来てくれたこと。タクシーの中でとても幸せだったこと。
会えたことは嬉しかったけれど、週があければすぐに引越しで、幸せな気持ちは長く続かなかったこと。そのせいで、次の日は一緒にいても辛かったこと。
740 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 16:45:26 ID:ZqihJCh5
彼女は上京するときに、地元に彼氏を残してきたそうで、遠距離恋愛で
つらい思いをしたことが書かれていた。半年で元彼との遠距離恋愛は終わり、遠距離恋愛が長続きすることはとても大変なことなのだという彼女の持論が書かれていた。
ましてやメールでしか人間関係を築いていない自分たちには絶対に無理だと。
そしてメールの中だけで続けていく恋愛は不毛だし、お互いにとってプラスにならないと。
彼女がきっぱりと俺との接触を絶ったのは、こういう理由だった。
遠距離恋愛など経験したことのない俺には、反論のしようもなく、ただグッタリとベッドの上に倒れこむしかなかった。手紙の文面から彼女の意思の強さが伝わってきて、説得は困難だとはっきりとわかった。
それでもすんなりと納得がいく訳ではなかった。確かに彼女の言うとおりだ。
こんな状況の俺たちが遠距離恋愛で上手くいくとも思えない。めったに会うこともないメールがほとんどの関係で、ちゃんとした愛が育つとも思えない。
でも、恋愛とはそんなに理詰めで考えていくものなのだろうか?
もっと感情のままに行動してもいいのではないだろうか?
どうしてもそれを伝えたくて、俺は次の日、彼女への返事を書くために、文房具屋へ封筒と便箋を買いに行った。
749 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 16:52:46 ID:ZqihJCh5
彼女へ手紙に書いたのは、俺の側から見た気持ちの移り変わり。
最初は寂しさを紛らわすため。そして段々と本当に彼女のことが好きに
なっていったこと。
彼女の「きっぱりと関係を絶つべきだ」という言い分には納得したこと。
でもそれでも俺は君が好きだし、恋愛はもっと感情的でいいと思っていること。
そして最後に、「俺の方の携帯のアドレスは、ずっと変えないでおくよ」と。
手紙の返事は川嶋さんに渡して美紀へと送ってもらった。それから毎日
彼女からのメールを待っている。名前の後ろに誕生日なんていうアドレスだから相変わらず迷惑メールはたくさん入る。
でも以前と違うのは、受信する迷惑メールのひとつひとつをしっかりチェックするようになったこと。
もしかしたら彼女からのメールが混ざってるかも知れないからね。
785 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 17:06:09 ID:ZqihJCh5
以上で終わりです。
変な切り方になっちゃいましたかね。
彼女からのメールの返事は相変わらずありません。
俺の方ではもう待つことしかできませんから。
2ちゃんにこのことを書いたのは、もしかしたら彼女が読むんじゃないかと思ったからです。
写メールに名前と日付書いた文字を入れるなんて、完全に2ちゃんの発想だと思ったので彼女はひょっとしてねらーなんじゃないかと思ったんです。
文章書くの遅くてすみませんでした。
面白いといってくれた人がたくさんいて嬉しかったです。
明日から仕事で風邪をちゃんと治さなきゃいけないので、俺はここで落ちますね。ありがとうございました。
ケータイの中だけの恋愛
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