[機器][携帯電話] DDIポケット/京セラ, ビジュアルホン VP-210
秋吉 健のArcaic Singularity:モバイルはカメラとともに。スマホやケータイのカメラ機能が辿った進化と変遷を紐解き、今後に担う役割を考える【コラム】
S-MAX
2021年03月28日 15:31 (配信日時 03月28日 11:25)
携帯電話やスマホのカメラ機能について考えてみた!
みなさんはフィーチャーフォン(携帯電話)やスマートフォン(スマホ)でどのくらい写真を撮るでしょうか。筆者が普段スマホで撮るものと言えば、TwitterなどにUPする日常のスナップショットばかりで、何かの記念としての写真や「映え」を狙った写真はあまり撮る機会がありません。世の中を見渡しても、現在はコロナ禍によって人との接触が減り、スマホのカメラ機能の利用シーンも随分減っているのではないかと思われます。しかしながら、そのような時代でもTwitterやInstagramを覗いてみれば、日々膨大な量の写真や動画がスマホから投稿され続けています。これほど人々を惹きつけ続けるスマホのカメラ機能とは一体何なのか。私たちはどのように活用し、今後どのように進化していくのか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は携帯電話やスマホのカメラ機能にまつわる歴史や進化を紐解き、つらつらと書き綴ります。
日々の生活から記念日まで、携帯電話やスマホのカメラ機能は多くの人々の人生を彩っている
■写真で振り返る携帯電話のカメラ機能
はじめに携帯電話やスマホのカメラ機能の歴史を簡単に振り返ってみましょう。
日本初であり、世界初でもあったカメラ付き携帯電話と言えば、2000年に当時のJ-PHONEが発売したシャープ製「J-SH04」を思い浮かべる人も多いかと思います。しかしながら、PHS端末も含めるならば、1999年に当時のDDIポケットが発売した京セラ製「ビジュアルホン VP-210」が最初ということになります。ビジュアルホン VP-210とJ-SH04のカメラに使われていた撮像素子は、いずれも約11万画素のCMOSセンサーです。画素数からして4800万画素や1億画素といった現在のスマホ向け撮像素子とは比較になりませんが、それでも「携帯電話で写真が撮れる」というだけでも革命的な出来事だったのです。しかも、ビジュアルホン VP-210では静止画の撮影ができるだけでなく、1999年当時でありながらテレビ電話を可能にしていたのだから驚異的です。まさに「10年早かった技術」と言えます。
J-SH04がすべての携帯電話とスマホのカメラ機能の祖として語られることが多い理由は、カメラの位置と用途にあります。
ビジュアルホン VP-210がテレビ電話用カメラとしてフロント位置に搭載していたのに対し、J-SH04では端末背面(リア)にカメラを設置。一般的なカメラのように、風景や友人などの撮影をメインに据えたカメラ機能でした。その一方で、セルフィー(自撮り)でも使いやすいように大きめの凸面鏡をレンズ横に配置し、自分以外に友人と並んで撮影する際も画角を掴みやすいように工夫されていた点に、現在のカメラ付きスマホまで脈々と受け継がれてきた着眼点が見えます。
1990年代と言えば、女子高生を中心にプリクラ(プリント倶楽部)やその類似サービスが大流行した時代です。自分たちの写真を撮影してシールにして、携帯電話の裏や手帳に貼って持ち歩く姿こそが、カメラ付き携帯電話が誕生するきっかけであり原風景だったのです。
J-SH04。いわゆる「写メ」(写メール)はこの端末から始まった
J-SH04などと同じ11万画素のCMOSセンサーを持つ、京セラ製PHS「AH-K3001V」による撮影写真。当時はこんな酷い画質でも「写真が撮れる」というだけで小躍りするほど嬉しかったその後は携帯電話の進化とともにカメラ機能や画質は驚異的な向上を見せ、ついにはコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)市場を脅かすほどの存在となります。
日本の携帯電話メーカーは、「Cyber-shotケータイ」や「EXILIMケータイ」など、次々とコンデジのブランド名を冠した携帯電話を発表します。実際の撮影画像はコンデジの画質には程遠いものでしたが、それでも「撮ってすぐに携帯電話で見られる」、「友人たちとその場で共有できる(写メで送れる)」といった圧倒的な利便性から高い支持を獲得します。
2007年発売のパナソニック モバイルコミュニケーションズ製携帯電話「P905i」の撮影写真。CMOSセンサーの画素数は約510万画素。携帯電話のカメラはわずか数年で驚異的な画質向上を見せた
P905iの画質は今のスマホと比べれば残念なレベルだが、11万画素のCMOSセンサーの時代からほんの数年でこのレベルに達したことは驚愕の一言だ
■写真を「撮る」時代から「遊ぶ」時代へ
携帯電話が「ガラパゴスケータイ」(ガラケー)などと呼ばれるほどの進化を遂げていた頃に登場したのがApple製「iPhone 3G」です。当時のiPhoneはガラケーと比較してもカメラ機能が弱く、当初は多くの人に見向きもされませんでしたが、アプリの導入によってさまざまなエフェクトを追加した写真が撮影できるなど、ガラケーにはない楽しさが多くありました。そのため、写真をただ撮るだけではなく「加工して遊ぶ」という文化が生まれ始め、そのようなアプリも次々に登場します。この「アプリによって本来の機能にない楽しみ方ができる」ことこそが、ガラケーとスマホの最大の違いだったと言っても過言ではないでしょう。
2008年当時にiPhone 3Gで撮影した写真。アプリを導入することでさまざまなエフェクトを楽しめるのがiPhoneの魅力の1つだったそしてiPhoneの後を追い、GoogleがOSとしてのAndroidとそのスマホを発表します。
このAndroidが、実はカメラ用のOSとして発案されていた、と言ったらみなさんは驚くでしょうか。
AndroidスマホどころかiPhoneすら影も形もない2003年、Androidは米国Android社によって開発がスタートしました。当初から携帯電話向けのソフトウェアプラットフォームとして開発されていましたが、その発案時点ではカメラ向けのOSを目指していたことが、Android社を創設しその後Googleの技術部門担当副社長を務めたアンディ・ルービン氏によって語られています。当時のデジタルカメラ市場は商機を見いだせるほどには十分な規模ではなく、新たに参入するにはリスクや課題が山積していました。そのためカメラ用OSとしての開発は断念されたのです。
そして2005年に同社はGoogleに買収され、2007年に携帯電話向けソフトウェアプラットフォームとして発表、その後スマホ用OSとして成長し現在へと至ります。
2000年代の前半から、携帯電話のような通信端末とデジタルカメラ技術の相性の良さや、共通するメリットが認識されていたからこそ、華麗なる転身によって現在のAndroidスマホの隆盛につながったのです。
スマホカメラの機能と性能の向上はガラケー時代の比ではなく、人物をより美しく、風景をより鮮やかに、そして夜景すらも昼間のように明るく撮れるほどに進化しました。もはやコンデジが出る幕はほとんどなくなり、コンデジの最後の砦であった「ズームができる(望遠撮影ができる)」というメリットすら、多眼化と超高画素化によるデジタルズームの性能向上によって一般人への訴求力を完全に失いました。現在、カメラ市場として一定の需要を確保できているのは、レンズ交換式の一眼カメラ市場や動画撮影用のビデオカメラおよびアクションカメラ市場程度です。かつてデジタルカメラ市場が勃興した際、万人がカメラを持ち歩く未来が夢想されたものですが、皮肉にもカメラ技術と通信技術の進歩が、日常利用におけるカメラ単体での運用を不要のものとしてしまいました。撮影した画像や映像をその場ですぐにSNSへアップロードできない端末は、興味を持たれなくなってしまったのです。
■カメラ機能こそがスマホの存在意義となる未来
現在のスマホのカメラ機能は、もはや現実をただ写す(映す)ためだけに存在しているものではなくなりました。正面のインカメラは顔認証用のセキュリティツールとして利用され、背面のアウトカメラによって映された風景にはCGが合成されてAR映像として表示されます。QRコードはレンズにかざすだけで自動的に読み込まれ、電子マネーの決済手段として便利に活用されています。もはや私たちの生活において、スマホのカメラ機能は切っても切り離せない存在となっているのです。
BLOGOS
https://blogos.com/article/526147/
0 件のコメント:
コメントを投稿