2021年1月21日木曜日

[機器][市場] PCエンジンの凋落~その流通悲劇



[機器][市場] PCエンジンの凋落~その流通悲劇
ゲーム・インサイダー
元PCエンジンFAN編集の方から痛快な裏話を頂きました。
だまってこれを読んでくれって感じです。本当にありがとうございました!
■おもちゃショーでの誤解から始まった凋落
「声優椎名へきるの、怪&快進撃!!」 98.3.1
NEC HEからの強い要請により、PCエンジン情報誌がそろってブースを出した93年(だったかな?)のおもちゃショー。
PCエンジンFANでは、編集人Y氏の音頭のもと、これを創刊5周年記念イベントと位置づけ、さまざまなイベントを企画しました。その1つが、発売予定の「秘密の花園」に出演している声優を呼びサイン会を開くというものだったのです。
ソフトを作っている制作部の人間から、アーツビジョン(だったと思う。声優には疎いので)に手配を依頼。そして呼ばれてきたのが、当時まだ無名だった“椎名へきる”だったのです。もちろん、その裏には「お金を払って呼ぶのはイヤ」という編集部側の経済政策が絡んでいました。
というわけで、編集部に椎名へきるが打ち合わせにやってきました。そのときの、当時の編集部員T女史の印象です。
「ダメダメ、オツムから態度まで、ほんと~にガキって感じ」
私はおもちゃショーイベントの担当でしたが、この甲高い大きな声で話す女の子の担当は、他の雑務が忙しので外してもらいました。(そもそも口の悪さに定評のあった私をつけるわけがないか)
さて、イベント担当者である私の不安は、こんな無名の新人のサイン会に、いったい何人の客がくるのか? という点にありました。
もちろん、創刊5周年記念キャンペーンは誌面でも強力にアピールし、サイン会も告知はしていましたが・・・。
このように不安だらけで迎えた、一般入場の日。
別のイベント「PCエンジンカルトクイズ」の運営と客の解答用紙の採点に忙しく、ずっと控え室で作業していた私ですが、同僚から思いもよらぬ状況を聞かされます。
「整理券があっという間になくなって、告知した時間にブースに来た客がどうして整理券をもらえないのかって文句を言ってくるんですよ」
無名の新人になぜここまで?というのが編集部員たちの正直な感想でした。
さらには、サイン会イベントの開始と同時に一目見ようとする客でNECブースが大混乱。
当日の閉場後、NECから会場の安全を守れないと、我々は厳重注意を受けたのです。翌日以降は、万全の体制でつつがなくイベントを処理。事故もなく、おもちゃショーは無事終了しました。
しかしこのサイン会が思わぬ影響を与えたのです。NECブースに出展していたサードパーティの人々が、この盛況ぶりに強烈なプリンティングされてしまったのです。
「椎名へきるって誰だ? 随分人気があるじゃないか」
「今度使ってみるか?」
というわけで、出演本数も増えていき、さらにはPCエンジンFAN誌上で連載まで始めた椎名へきるは、大きくステップアップしていきます。
へきへき言葉の羅列だった連載原稿は、担当T女史をひどく疲れさせたものの、一部ファンたちから強烈な支持を受けました。
しかし、当時から編集部員たちは気づいていました。
「サイン会に集まった人間のうち、椎名へきるのファンなんていなかったのではないか」
「要は誰でもいいから声優のサインが欲しかったんじゃないか」
結局メーカーにまで人気声優と認めさせてしまったこのサイン会。
人生何がきっかけになるか分からないものです。ラジオから流れる彼女の声優に不向きな声を耳にするたびにちょっと複雑な気分になります。
■1992年から93年のPCエンジン流通事情
「消えゆく炎を一気に吹き消した 粗悪ソフトの乱れ売り」 98.3.1
PCエンジンは、8bit機ながら、16bit機全盛の時代に非常によく頑張っていました。
市場の終焉は、少なくとも92年当時にはまだ考えられなかったはずです。しかし、32bit機の登場により完全に消滅する前に、実は大きな破滅の前兆がありました。それが92~93年、一見華やかに見える、スーパーCD-ROM2ソフトが大量に発売されたこの時期なのです。この時期に流通にそっぽを向かれたことが、結果として終焉を早めたと思われます。
とはいえ、ゲーム流通は、一般ユーザーにはなかなか見えにくい部分です。かくいう私もゲーム雑誌編集者という立場にはありましたが、ゲームメーカーの視点が加わっていた程度で、実質的には一般ユーザーと変わらなかったと思います。流通関連の話は、後日問屋から直接聞かされました。
ゲームメーカーで企画が通り、制作が始まると、パブリシティとしてまず雑誌にタイトル発表されます。この段階では、企画書などの資料、キャラクタのイラスト、先行して作成されたグラフィック画面などが、広報を通じて、各雑誌社に配布されます。人気タイトルや大手メーカーのタイトルは、比較的早い時期から毎号新着情報が掲載されます。とはいえ、資料ベースでゲームを眺めるので、雑誌側としても移植ものや人気シリーズものが中心になりがちです。操作したこともないオリジナルのシューティングやアクションは、なかなか紹介ページを確保できないわけです。やがて発売日が発表されます。CD-ROMの場合、発売日の1~2ヶ月前には、マスターアップしなければなりません。納入が1ヶ月前で大丈夫なのは、NECやハドソンなどごく限られたメーカーで、多くのメーカーは2ヶ月前にはマスターアップしなければなりませんでした。Huカードの場合は、さらに納期が早まります(末期には生産ラインがあきっぱなしで、かえって早いという事態もありました)。同様に、問屋からの受注期限も発売日から逆算すると約1ヶ月前になります。
生産本数もメーカー内でかなり早い時期に決定します。最低単位(ロット)がありますから、製作にかかった経費などを考慮しつつも、実売本数から大きくズレないように計算しないと、大量の在庫を抱え込むことになります。とはいえ、雑誌に紹介記事が掲載されるのは大抵1ヶ月前。読者の反応などもほとんどわからない時期です。結局は、ソフトの質をじっくり見極めるしかありません。
ソフトの質は、開発陣の頑張り次第です。
もちろん美少女育成など「ブームだから作れ」と命じられるものも少なくありません(こういった場合は、なかなか作り手に思い入れが湧かず、質の低い作品になりがちです)。開発陣は、マスターの納期に向けて、泊り込みの日々を重ねますが、どうにも変わり者が多く、突然失踪したり、気が乗らないなどと抜かす輩も少なくありません。
そういった開発陣を、営業スケジュールを考えながらコントロールするのが、プロデューサーの役割です。納期に良質ソフトを納入できるかどうか、プロデューサーの手腕にかかっています。良質ソフトを作るためには製作期間をじっくり取ればいいと思われるかもしれませんが、目標やスケジュールを立てないと、人間自分に厳しくできないものです。ダラダラ作ったゲームは、それなりの品質にしかなりません。開発者はどこか編集者やライターに似た部分があり、そのあたりの事情、私にも身にしみて理解できます。
このスケジュール調整に失敗すると、マスターアップが納期に間に合わなくなります。ここで大きな決断を迫られるのです。経費が増大し、さらには流通を裏切ってまでも発売日を延ばすか。それとも、適当なところで折り合いを付けて強引にマスターアップするか。この選択は、正解が前者とは限りません。開発期間に、比例して経費も増えていきますので、その分ソフトの定価が跳ね上がります。価格変更は、RPGのようなジャンルのソフトはともかく、アクションやシューティングでは難しいものです。
ここで、生産本数の話に戻りましょう。冷静な市場分析がそのまま通らないのが会社という組織です。「パブリシティにこれだけ投資したのだから、これだけの本数は売らなければ」「今期の決算を考えると・・・」など、さまざまな思惑が絡んできます(たいていは上層部の圧力)。こうして1万本売れれば御の字というソフトが、意味もなく3万本も作られたりするのです。
こうして作られた3万本の“クソゲー”は、営業がどんなに足を棒にして問屋をまわってもさばけるものではありません。
心苦しいながら、まずは好意的な問屋に無理をお願いすることになります。もちろん仕入れ値は“お安く”設定します。
普通にさばいてせいぜい1万本。無理矢理問屋に押し込んでようやく2万本クリア。さて余った1万本をどうするか? そのまま上層部に報告すれば、大量の在庫を抱え込むという非常事態になります。そこで再度問屋の登場となります。裏口のある問屋で「クズ」同様の価格でさばくのです。こうしてなんとか本数をさばききった営業たちは、やっと会社に戻ることができるのです(ここで使った数字は単なる目安、架空のものです)。
さてクズを引き受けた問屋ですが、問屋にとっても不要な在庫を抱え込むことは、自らの死を意味します。商品を横流しすることが商売であり、その流れに滞りがあれば、他の新作を倉庫に搬入できなくなります。そこで、取引先のショップに超低価格で買ってもらいます。このようにして、ソフト発売日に、見るも無残な価格でソフトが店頭に並ぶのです。
馬鹿を見るのは、先に購入してもらった問屋です。自分たちが普通に仕入れたソフトが、仕入れ値以下で他店に並んでいる・・・「二度と買わん!」となります。メーカーへの不信、何度も続けば市場そのものへの不信が生まれていきます。
■私見
ここで書いたケースは、大手やまじめな営業活動を続けていたゲームメーカーから見れば、極端なケースと言えるでしょう。
しかし、極端なメーカーが少なからず存在したことも事実です。
さて、この中で一番の悪者は誰でしょう。
買ってくれない問屋、クソゲーを作った開発陣、売り切れなかった営業。本当に彼らの罪でしょうか? 
個人的には、会社の上層部にこそ、一番の責任があると思います。株価対策などの事情は理解できますが、結果的にすべての尻拭いを下に押し付けている点は非難されて然るべきでしょう。決算が近づくと発売タイトルが増加するのも当然彼らの指示です。ソフトの内容などたいして考えてはいないのです。当然、営業と開発のコントロールに失敗したプロデューサーも同罪です。
一方、当時非難された問屋ですが、その役割は、ショップでは把握しきれない新作ソフト情報を整理し、売れるソフトを確保してショップに供給していく調整弁の役割を担っていました。確かにゲームに無知な問屋も多く存在しましたが、92~93年頃のPCエンジン市場におけるスーパーCD-ROM2タイトルの濫発が、メーカーと流通の信頼関係を一気に悪化させたことも事実です。事実、この時期を境にして、ショップからPCエンジンコーナーが消えていきます。PCエンジンの扱いをやめる問屋も次々に現れました。32bitゲーム機の話題で、市場自体に終わりが見えていたことも事実ですが。
さて、この時期以降に発売された良質ソフトに「オルゴール」がありました。製作はデータウェスト、私が個人的に好きなメーカーの1つです。
根強いファンを持つこのシリーズですが、生産本数は1万3千とも、1万以下とも言われました。
さっそく編集部に「店頭に無くて買えない」という読者からの手紙が多数届きます。
しかし、その時PCエンジン市場は、すでに再販する体力すら残っていないボロボロの体になっていたのです。
■PCエンジンの流通悲劇
PCエンジンの流通悲劇は、ソフトだけではありませんした。
なんと似たような事が、ハードの販売においても行われたのです。
玩具流通の問屋たちがPCエンジンを嫌った理由には、NEC HEが「家電メーカー」だったということもあるのです。
家電メーカーとしてとらえた場合、NEC HEにおけるPCエンジン本体の販売など金額的に微々たるものです。単価の高い製品は家電にいくらでもあります。そんな大量に家電を購入してくれる、大手の家電量販店のようないわゆる「お得意様」。この「お得意様」が、他製品購入の際に、おまけとしてタダ同然の価格でPCエンジンを仕入れていたのです。安く仕入れたPCエンジンは、先のソフト同様、一般の流通における仕入れ値を下回る金額で店頭に並びました。
ハードをストックしていた問屋からみれば“なぜ?”となります。株の暴落同様、市場価格がストックした製品の価値を下げてしまい、在庫赤字、要は不良債権状態になってしまうのです。彼らから「これだから家電メーカーは・・・」とグチがでるのも仕方がないでしょう。
さらに任天堂のユーザーサポートに比して、動きが鈍く、費用の高いNECのずさんなアフターケア。この苦情がもろに集中するショップから、NECへの怨嗟の声が問屋にも伝わってきます。後半、2万、3万円台の安い本体を販売しても、ショップや問屋が仕入れなかったのは、NECへの不信感によることろが大きかったと思われます。
最後に一言。
この文章の内容は、私が雑誌の編集や流通への取材の中で聞いた話に基づいています。
とはいえ、あくまで聞いた話にすぎませんから、半信半疑で読むくらいが丁度いいでしょう。
第参話 コナミから届けられた1枚のライトワンスが編集部の機能を停止させた!?
「発売前のときめきメモリアル周辺事情」 未定
そのうち登場予定
第四話 単なる映像オタクの集まりだった!? パイオニアマルチメディア事業部の悲劇
「レーザーアクティブ破滅への道」 未定
そのうち登場予定
pcengine@aqua.famille.ne.jp

PCエンジン補完計画
http://www4.famille.ne.jp/~pcengine/insider.html
http://www4.famille.ne.jp/~pcengine/list-hard/tg16/tg16_hardlist.html

PC Engine GigaMaxx
http://www6.airnet.ne.jp/wataru/pce/rgb.htm
http://www6.airnet.ne.jp/watar

PCengine Side
http://homepage3.nifty.com/rhythmsift/pceside/sittoku.htm

workshop PCエンジンおしゃれ計画blog













0 件のコメント:

コメントを投稿