1999年1月13日水曜日

[ゲーム] キャプテン・ラヴ

[ゲーム] キャプテン・ラヴ
『キャプテン・ラヴ』のゲーム表現~インタラクティブ幻想を尻目に~
中川大地 
1999.5.27改訂
■『キャプテン・ラヴ』とは
『キャプテン・ラヴ』は,語り伝えるべき価値を誰もが認めつつ,「冗談にまぎれて本音を言う」その手つきがあんまり見事だったので,下手に言葉を重ねればなんだかすべての興が凍りつき,てめえの野暮がさらけ出てしまう,語り手たちにとってなかなか厄介な作品という印象がつよい。
けれども,これまで寄せられた同作品への言葉たちをみると,そんな気後れにひとしきり頭を掻いた後で,けっこう素直に自分ごと気持ちよく語られたりしてて(笑),やっぱりキャプテン懐が深い。
ここでは,そんな懐の深さに居直りながら,『キャプテン・ラヴ』のすぐれたシナリオを支える,ゲームとしての表現の特徴・画期性を,なるべくバカ丁寧に言葉にしていきたいと思う。
これって逆にお約束違反の卑怯な逃げかもしれないが(爆)すくなくとも「布教」のためのお買い物ガイドとしてはいつか誰かがやらなければならぬ手続であり,その泥を自分が被ろうという次第である!…ということにしといてクダサイ。
ともかく,敬意ひとつ表すにも,なんか皆がいろんな気づかいをせずにはいられなくなってしまっている奥深い作品なのだということだけ,未プレイの方には心に留めておいてほしい気がしちゃったりなんかして(「ふざけて」/「ごまかす」)。
さて,『キャプテン・ラヴ』は,愛の共産化の理念のもと,すべての人にラブを分け隔てなく与えることをもくろむ秘密組織ラブラブ党と,永堀愛美(ラブラブ党書記長の愛娘である)への唯一絶対のラヴを貫く愛と正義のヒーロー,キャプテン・ラヴこと主人公との熾烈な論撃バトルを背景に,「真実のラヴ」を描くドラマチック・ヒーロー・アドベンチャー。つまり「お嬢さんをください!」てな話。
全9話構成,第1話で全編を通じた主人公の正式な恋人となる愛美のほか,各話で1人(ないし2人)ずつ設定されたエピソード・ヒロインとの3角(ないし4~5角!)関係を中心とする物語を描く,基本的に一本道の静止画&テキストAVG。各話で愛美以外のヒロインに乗り換えるとその話かぎりでゲーム進行がエンディングになることと,3・5・7話がシナリオ進行中の随所でオプション的に現れる「フリー」コマンドでの移動場所選択で一定の条件をそろえフラグを立てなければ発生しないことのほかは,大きなシナリオ展開の分岐はない。
つまりAVGとしてのインタラクティブ性の基本であるプレイヤーの選択の入力は主に対話相手の台詞へのレスポンスが中心で,『ときメモ』型のいわゆる恋愛シミュレーションゲームによくみられるパラメータをカスタマイズする操作とか,『同級生』シリーズ的な女の子のいそうな場所への選択的な通いこみとかの要素はなく,相手のリアクションのニュアンス的な変化のみが結果として出力されてくる。だから『キャプテン・ラヴ』における選択肢の意味は,妙なゲーム的要請に苛まれることなく,おおむね主人公のロールプレイや当意即妙のやりとりでシナリオを楽しむために供されているといってよいだろう。
各話の山場では,このゲームを特徴づける論撃バトルなる趣向が用意されている。
主人公の恋路を邪魔するラブラブ党の敵対者たちとの愛をめぐる論争を四択の台詞選択でおこなう。
よって,明示的な能力値もヒットポイントも隠しパラメータもないこの風変わりなバトルの勝敗を左右するのは,プレイヤー自身のドラマツルギーの理解度や主人公への感情移入度,そして洒落の通じ度にほかならない。
また,この作品のゲームとしてのストレスの少なさについてもふれておきたい。
それは,シナリオの進行がゲーム性のために滞らされることが,一切ないということである。
多くのAVGやRPGでは「推理」や「謎解き」といったフラグ立ての作業が,それをクリアしなければ同じ処からストーリーを進めることができない障壁となっており,その部分こそ「ゲーム」としての存在証明のように,なかば硬直化した信念のように思われているフシもある。
対し,『キャプテン・ラヴ』にはそうしたところでプレイヤーに負荷を与えることがない。
考えようによっては,従来のゲームでプレイヤーがフラグを立てるまでどんなに時間をかけても,シナリオが待っていてくれるというのは,リアリティという点で妙な話だ(同じ連中からグルグル何度も同じ話を聞かされたり,すわ世界崩壊という直前にチョコボを育成していたり…)。このへんの時間進行の問題に絡めて考えてみても,ファジー選択や論撃バトルで何の選択もせず無言のままでいることもゲーム的にひとつの選択と認められていたりして,この作品の従来にないフィロソフィーのひとつとして受けとめてよい気がする。
こうしたゲーム性の評価にうつる前に,演出の特徴についてもふれておく。
『キャプテン・ラヴ』の見せ方の枠組みには,各話を350MB以上の容量を費やしてあるという上質のオープニングセルアニメのムービーで始め,各エピソード・ヒロインのモノローグによるイントロダクション,サブタイトル・ブリッジと続いて本編に入る,連続TVアニメ仕立ての構成が採用されている。
しかしそれでいて,『サクラ大戦』なら美少女チームバトルもの,『メタルギア・ソリッド』なら吹替アクション洋画ものといったように,作品全体の雰囲気を言いあらわすことができるような,直接外部参照できる既存メディアでの確立されたコンテンツ様式は,意外と見あたらなかったりする。これまで32ビットゲーム機において,ストーリー表現を注目されたゲーム・タイトルの多くは,その演出を主に映画やアニメを中心とする既存メディアのオマージュとしておこなわれているのが中心であり,その評価の仕方ももっぱら「◯◯というゲームはうまく××映画のエッセンスを再現した」という観点からであったことを想起してほしい。
『キャプテン・ラヴ』では,たとえば変身ヒーローものという要素ひとつとっても,シナリオの中でパロディ的に二重三重に消化された表現装置であるにすぎず,たとえば役者を藤岡弘や大葉健二といった特撮ヒーローものの常連で固めるというような,演出様式それ自体の本家取りということとは本質的に異なる。TVアニメ仕立ての構成も,決して様式それ自体が目的なのではなく,後述するように作品のシナリオを最大限活かすための,ゲーム性と密着した表現手段にすぎない。
このようなストーリー表現の様式の自立性の高さも,地味なポイントではあるが,特にプレステのタイトル群の現状からすると,本作品の画期性のひとつに数えておいてよいかもしれない。 
以上のようなゲーム構造・演出上の特徴は,しぜんプレイヤーの関心をシナリオへと効果的に注力させる。つば広の帽子を被ったマイペースっぽいヒロイン愛美のクローズアップや仕草に始まり,OP曲なかばで各エピソード・ヒロインを1ショットずつ連続でみせるオープニング・アニメの構成は,あくまで愛美がメインで他ヒロインたちは脇役であることを主張し,プレイヤーに物語の主人公として愛美との恋愛関係を貫き通すことがゲームの本筋であることが一目でわかる。どんなに当たりさわりのない受け答えを選択しても避けられない近藤パンチを2~3発も喰らってみれば,いいかげんこのゲームのたちに気がつくはずだ。
多くの恋愛題材ゲームでは,さまざまな記号的属性によって色分けされた複数の候補の中から好みに合う娘をプレイヤーが自由に選んで落とすことがゲーム性の根幹であり,登場キャラたちのゲーム的・シナリオ的な位置づけがほぼ等価に近いのとは対称的に,『キャプテン・ラヴ』の女たちには,物語上の役割によって規定された,主人公の相手としての重みづけの違いがはじめから付与されているのである。
そんな各話のエピソード・ヒロインたちは,えてしてプレイヤーにとってヒロインの愛美よりも恋愛対象として魅力的な部分を強調されて描かれることが多く,プレイヤーとしての自分の気持ちと裏切りながらゲームを進めるために愛美を選ぶという心理的負荷にしばしば苛まれる。
その心理的負荷はちょうど,心を通い合わせ,自分を好いてくれた女性たちを棄てていかなければならない主人公の心の傷の蓄積に対応し,「従来の恋愛シミュレーションにないリアルな恋愛描写」という印象評価の根拠のひとつとなっている。田尻智流に言えば,『キャプテン・ラヴ』は「悩む,振る」ゲームだとでもいうことだろうか。
このような仕掛けで語られる『キャプテン・ラヴ』のシナリオには,シナリオ・ライターが「こうだ!」と信ずる恋愛観が明確なテーマとして屋台骨を貫いている。しかしその語り口は,修学旅行での夜話のような未成熟な直球でプレイヤーを白けさせることなく,ゲーム中でさんざん相対化されるキャプテン・ラヴ自身やアンチ観念の戯画化したラブラブ党などのバカな設定・プロット展開や軽妙なギャグで,「愛を語る野暮」は巧妙に回避されている。けれどもそのバカっぽい装いは,オタク的に高見に立っ(たつもりになっ)て対象を嘲笑する普通の意味でのバカゲー的な下卑た笑いには陥らず,テーマの真摯さを損なうよりもむしろ際だたせることに成功している。
■『キャプテン・ラヴ』の構成
すこしだけ中身に触れよう。
第1話における愛美は,主人公からみて「からかわれているのか?」という印象を抱かせる,ついペースを奪われてしまうつかみどころのない不思議ちゃん的女の子としての印象がいくぶん強調されていようにみえる。そんな彼女の振る舞いと,ふとしたやりとりの中で見せた涙とのギャップが,女性に対しトラウマをもつ主人公の目にはどうしても気になるある種の神秘感をもった存在に映り,恋愛の契機となるさまが描かれるが,ここまでの過程には従来の恋愛題材ゲームの典型的な展開とほとんど大差がないようにみえる。
そうした従来型典型での「お約束」的展開ならば,主人公(あるいは男一般)にとって,出会いの段階での相手についての情報の欠如が膨らませる「こうあってほしい」という願望を大きく裏切らない範囲で相手のバックグラウンドや本性がエピソードのなかで描かれ,ラスト,相手のパーソナリティに誤解の余地のない状態になってはじめて告白する/されるという手続を踏むことになるだろう。
しかし本作品では,愛美と恋愛関係になるまではあくまで前節であり,その関係を波風の中で維持してゆく過程こそが物語の根幹となる。いったん彼女になった第2話以降の愛美はどんどん所帯じみて,現実に愛美と恋愛関係にあるわけではないプレイヤーの目にはほとんど鬱陶しく思えるくらい嫉妬深い,甘えん坊にみえてくることもある。
このあたり,他の多くの恋愛題材ゲームが恋愛関係を維持してゆく困難を捨象し,相手についての幻想を膨らませる過程をのみディフォルメしているのに対比したとき,「リアル」という評価がここにも妥当する。
もちろん,恋愛関係の維持するしんどさをしんどく描くだけのアンチなシナリオではない。プレイヤーの側の違和感を呼ぶ愛美の側の未成熟も第6話や第8話などでエピソード・ヒロインたちによって告発され,主人公とともに成長を遂げてゆく過程が起伏ゆたかなプロットのなかでしっかり描かれる。
シナリオ全体やキャラクター造形を通じ,明らかに制作者は従来の恋愛題材ゲームの現状を前提に,高い批評的意識のもとで作品づくりに臨んでいたことがうかがえよう。 
以上みてきたように,明確な問題意識を反映した作家性の濃厚なシナリオに対し,「これをしたらゲーム的に駄目なんじゃないか」という展開分岐への妙な危惧に邪魔されることなく右四つで取り組み,呈示されたお題と対話することに専念できるよう,あらゆる表現要素が最適化されているのが,本作品のゲームとしての最大の特徴だろう。
こういう作品に出会うと,デジタル技術にあかせて受け手が物語に介入できるようにすることを是とするゲームについての素朴なインタラクティブ幻想は,やはり不用意なものだとつくづく思わされる。しょせんコンシューマ・デジタルハードでのパッケージソフトという制約がある限り(ってーか結局ネットゲームでもそうなんだが),受け手の物語介入欲求を満足させることなど望みえない。そしてそのように「錯覚させる」ことも,ハードの映像表現能力の向上は急速に困難にさせつつある。月並みな言い方だが,人が物語をつくる素過程とは五感から入力された情報の不足を大脳での解釈処理の段階で補うことにほかならないと思うので(マクルーハンのホット/クールなメディアとかを持ち出す恥ずかしいやつもいる),ゲームから得られる視聴覚情報量がビット勘定で増え,その視聴覚情報の内容も本物そっくりに具象化し,おまけに映画的文法で編集済み(編集ってのは情報の解釈行為そのものですからね)ということになってしまっては,受け手の脳でなすべきことがどんどん無くなるばかりで,かつてのような「物語に介入する」感覚などは望める道理がない。
『キャプテン・ラヴ』は,そんな気の滅入る物語ゲームへの過剰な幻想と勝手な幻滅とのジレンマを尻目に,ゲームと物語表現との,また送り手と受け手との関係についての,もうひとつ別のスタンダードの存在に気づかせてくれたような気がする。要するに,この作品は「(疑似)物語作成キット」ではなく,物語の決められた役割をプレイヤーのパーソナリティにおいて演じる文字どおりのロールプレイング・キットとでも呼べるものだったのではないだろうか。この意味づけはたとえば「やるドラ」シリーズのようなAVG全般に多かれ少なかれあてはまる要素ではあるが,推理や謎解きなどの従来のゲーム的要素がなく,選択肢の設計が徹底しており,より純粋で完成度の高い雛形として位置づけることができると思う。
プレイヤーはそんなふうに主人公を演じながら,物語を動かせるという錯覚ではなく,会話や論撃のなかでシナリオからの「ツッコミ」とか「ボケ」とか「批評」とかを,受けとるのである。
つまるところこのゲームにおけるインタラクティブ性ということの意味は,既存物語メディアにおける鑑賞となんら変わることのない,作家と読者との内面性の交錯以外の何物でもないわけだ。
そして,それで良いではないか。
この何年か,ゲームと物語との関係についての夢をたくさん見たけれど,これからはもうそれは無理だから。
しょせんぼくらは,作家がシナリオにこめたカタルシスを,お金で買う以外に手に入れられない,フツーの人に戻るしかないのだから…!
※なーんて能書きはともかく,普通の大人がキモチ悪い思いをすることなく,自然に笑い,泣くことのできる数少ない恋愛ゲームってことです。
気心の知れた仲間同士でのパーティー・ゲームとしてもなかなかお薦め!けど恋人とやるのはけっこうチャレンジかも!?

沢月亭
http://homepage1.nifty.com/sawaduki/game/guest/clove_r.html
http://homepage1.nifty.com/sawaduki/game/goebbels/essay/game2.html
http://homepage1.nifty.com/sawaduki/game/goebbels/goebbels.html













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